第二回「タンタル概論」 泉 知夫(キャボットスーパーメタル(株))
3.タンタルの資源
タンタルは地上には他の非鉄金属と同様に酸化物のかたちで存在する。主要な産地は、表―3にしめすようにオーストラリアである。他は小規模な生産でアフリカ、ブラジルなどで生産される。一般的には200〜300PPM程度の原鉱石を選鉱精錬などで30wt%程度(Ta2O5換算)に濃縮する。市場で取引される品物はこの30%程度の高濃度鉱石のポンド当たり(Ta2O5換算)のドル($/lbs)で公表される。
従来20〜30$/lbsの価格で推移していたが最近は高騰傾向である。これらの高濃度鉱石は通常生産現地でおこなわれ、次の中間原料であるK2TaF7フッ化タンタル酸カリウムは米国、タイ、中国で加工される。K2TaF7のタンタル酸化物をフッ素酸に溶解しMIBKなどの溶媒抽出でニオブを分離した溶液にKClまたはKOHを添加して製造する。この工程は環境的に厳しく産地が限られている。Cabot社では米国からK2TaF7を会津工場へ輸入している。従来も鉱石価格の高騰が問題になったが、今後もタンタル業界が安定的に伸びるためには鉱石安定供給、価格の安定化は必須であろう。
表-3
4.タンタル製造工程
4-1 タンタル粉末の製造方法
コンデンサー用としてのタンタル粉末は後述するように粒子は微細化されて表面積が大きくなければならないが現在は以下の反応式に示す3つのプロセスが実用化されている。
(1) K2TaF7のNa還元 K2TaF7 + Na = 2Ta + 5NaF + 2KF
(2) 酸化物のMg還元 Ta2O5 + 5Mg = 2Ta + 5MgO
(3) 塩化物の水素またはNa還元 TaCl5 + H2(orNa)→ Ta + HCl(orNaCl)
現在の主な製品はK2TaF7のNa還元品であるが、高容量品の開発は酸化物、塩化物をスタート原料にした工程が検討実施されている。各々次のような特徴がある。Ka2TaF7のNa還元は液/液反応であり、歴史も古く、技術も確立し大量生産に向いている。生産管理もやり易いが高容量化に伴って環境面価格面でやや不利である。
酸化物のMg還元は 固体/液(一部気体)反応で粒子は酸化物の形骸粒子が残り、粒子は硬度が高めで粒度分布の幅が狭くなるのが特徴である。生産性がやや不利と思われる。塩化物の水素、Na還元は 蒸気/蒸気反応であり、生成粒子の微細化が容易である。環境的にも有利な工程であり、将来性が大きいといえよう。
図―2に一般的なタンタル製造工程を示す。
図―2
上記の3つの方法で作られたタンタル粉末は若干の相違はあるがいずれも、このフローシートにあるように、還元工程後 水洗い、酸洗いで付随して生成した塩類を除去する。次に水素、塩素、フッ素などのガス抜きと、粉体の流れ性を改良するための真空熱処理を施す。ここで通常リンを添加して陽極素子焼結時の過収縮を抑制する。
また真空熱処理後は酸素が増加してコンデンサーの信頼性の悪影響を及ぼすため脱酸素工程が必ず必要である。これは上記(3)と基本反応式は同じであるが生成した酸化マグネシウムの除去は硝酸を用いて水素が増えないようにしている。
図―3にはK2TaF7のNa還元装置を示す。粉末の微細化のパラメータは反応温度と溶融中のK2TaF7の濃度である。反応温度は低いほど、K2TaF7濃度は薄いほど生成するタンタル粒子は微細化するが不純物は増加傾向となる。
図―3
図―4にはタンタル粉末の真空熱処理の装置を示す。熱処理による塊を粉砕することにより粒度分布は粗粒側にシフトして紛体の流れ性、成形性は改良される。これはコンデンサーの素子をプレス成型する際、重要な紛体特性である。
図―4
図―5にはタンタル粉末の脱酸素工程装置を示す。高温処理を繰り返すごとに表面の酸素が内部拡散して表面活性化が起こるため、常温で開炉するとき空気にふれて酸化反応が起こり、毎回酸素は増加する。常温では窒化は起こり難く窒素は増加しない。
図―5
図―6に塩化物のNa還元の模式図を示す。本プロセスはフレイム合成法とも呼ばれ非常に細かい粉末を製造することができる。環境的コスト的にも有利と考えられるので早期の製品化が望まれる。本工程で作られる粉末はコンデンサーの容量を表すCV値で300kCV/g以上を期待されるが、商業化には業界全体の取組み開発が必要であろう。
図―6
4-2 タンタルミルプロダクト(展伸材)の製造方法
タンタルは融点が約3000℃と非常に高いのと500℃程度以上で酸化してしまうため展伸材の原料であるインゴットをつくる溶解炉は特殊なものとなる。現在使われている溶解炉はエレクトロンビーム溶解炉(EB炉)とアーク溶解炉が主体である。Cabot社では米国のペンシルバニア州のボイヤタウン工場に1200KWの世界最大級のEB炉が2基ありタンタルとニオブの溶解に用いられている。
EB溶解インゴットは高真空下で3000℃以上の溶解で作られるため精製効果があり高純度の材料が得られる。通常直径は250cm長さ2m程度のインゴットから加工を始める。表面面削をしてから冷間鍛造を行いスラブ、丸棒にして以降は通常の金属塑性加工と同じプロセスを経て板、棒などに加工される。工程の間で加工硬化が起こるため圧延などできなくなるがタンタルの場合1000℃程度で真空焼鈍して再結晶化させると柔い焼鈍材となり加工が可能となるがこれを数回繰り返さなければならない。
ターゲット材料、砲弾頭用材料(タンタルは対戦車用砲弾頭に使われる)などは結晶の粒度、方位などが重要で加工中の圧延条件、真空焼鈍条件によって管理される。コンデンサー用のワイヤーは次に述べる粉末冶金法によるものが多いが、筆者の開発したY2O3添加タンタルEBインゴットワイヤー、板材はコンデンサー用やタンタル製造用の装置に広く使われている。
アーク溶解はタンタルの合金、クルードインゴット、など比較的少量の生産に用いられている。
粉末冶金法による展伸材料は主に、タンタル合金、少量の添加物入りタンタルなどの生産に用いられる。 タンタル粉末と添加材料を混合して樹脂袋にいれて静水圧プレス機で高密度の棒をつくる。これを真空下で電極を両端につなげて2500℃以上の直接通電焼結を施し密度を99%以上にする。これを鍛造、スエイジング、圧延、線引きなどの工程を経てタンタル線、棒が得られる。タンタルコンデンサーのリード線の用いるタンタルワイヤーは結晶粒成長を防ぐため、数十PPMのY2O3イットリアとかSiO2シリカなどを添加する。これらのワイヤーはタンタル素子の焼結後に結晶粗大化せずワイヤーの脆化が起こり難いことが知られている。
EB溶解,アーク溶解、粉末冶金法のいずれも原料は高純度のタンタルスクラップ(粉状)か溶解用(冶金用)の還元タンタル粉をスタート原料にしている。