一般社団法人新金属協会

平成22年12月3日開催異業種交流会における講演内容です Vol.3

キャボットスーパーメタル(株) 常務取締役 技術統括 泉 知夫

第三回「タンタル概論」 泉 知夫(キャボットスーパーメタル(株))

5.タンタルコンデンサー用粉末について

 

5-1 タンタルコンデンサーの説明

タンタルコンデンサーの製造方法について簡単に説明する。タンタルコンデンサーは以下の(i)〜(iv)のプロセスにより作成される[1]

(i) タンタル粉末を圧縮成型、高真空中で焼結し、多孔質のペレット(素子)を作成

(ii) 素子の表面に陽極酸化皮膜(非晶質の五酸化タンタル(Ta2O5)膜:タンタルコンデンサーの誘電体皮膜)を電気化学的に形成(化成)

(iii) 陽極酸化皮膜の上に硝酸マンガン溶液を付着、熱分解により二酸化マンガン(MnO2)層を作成。最近はMnO2の代わりに低抵抗の機能性高分子材料(ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなど)も使用されており拡大の方向である。

(iv) グラファイト、銀ペーストを塗布、端子を接続して、樹脂で外装

上記方法により作成されるタンタルコンデンサーの主要な特性は高容量値(CV/g)、高信頼性値(漏れ電流LC値)、低抵抗値(ESR値)などである。

これらの製造工程およびコンデンサーの特性を達成するため、原料であるタンタル粉末にいろいろな要求が求められる。

 

(1) コンデンサーの容量

コンデンサーの容量は、焼結体素子に陽極酸化皮膜を形成した後の空孔表面積に依存するが、その空孔表面積は、単純に言えば、タンタル粉末の一次粒子径に依存する。粉末の一次粒子径は、粉末の製造工程の中の還元工程(粉末の生まれ)で決まる。

図-7は容量の異なる陽極素子を提供するタンタル粉末の一次粒子像を示す。

図―7

この図より、低容量の50 kCV/g粉末の一次粒子径は500 nm以上であるものの、最先端の250 kCV/g粉末のそれは、100 nm以下である。コンデンサーの実際の容量は粉末の表面積に依存するが正確にはプレス成型した素子の焼結後の空孔内の表面積でありより正確には陽極酸化皮膜を形成した後の空孔の表面績に比例する。したがってこの焼結素子の内部空孔を如何にコントロールできるかが粉末特性の課題となる。図-8は容量の異なる陽極素子の空孔分布の例を示す。この空孔分布から表面積が計算できて実測の容量値とよい相関関係があることが知られている。また空孔分布はコンデンサーの容量出現率(湿式測定容量と固体MnO2,ポリマー含浸後の容量の比)とか抵抗値(ESR)にも大きく影響あることが知られている。

図―8

(2) コンデンサーの信頼性:微細化に伴う不純物特性の変化と素子の物理的強度

代表的なタンタル粉末の不純物特性を表-4に示す。容量の増大、すなわち、一次粒子径の微細化に伴い、表面に吸着するガス成分である、酸素、窒素、水素の増加が見られるとともに、他のアルカリ金属、重金属不純物も多くなる傾向がある。ただし窒素やリンは粉末の耐焼結特性を上げるため意図的に加えられている。

コンデンサーの信頼性はこれらの不純物が焼結素子の表面とか内部に存在すると陽極酸化皮膜の性質に悪影響を及ぼすため、できるだけ低いことが望ましい。

信頼性に影響を及ぼす因子として素子の物理的強度、リードワイヤーとの接触強度がある。上記工程でMnO2やポリマーを含浸させる熱分解など物理的なストレスが生じるため素子の強度はこれらに耐えるだけ強くなければならない。通常始めのプレス密度より10%程度の収縮が必要と言われている。焼結温度を上昇すれば収縮も大きくなるが、一方で表面積も減少し容量(CV/g)も減少してしまうため、なるべく収縮は小さく尚且つ強度は十分な素子となるような紛体が望まれることになる。

表―4

(3) 粉末評価と物性制御

粉末特性として代表的なものは、比表面積、嵩密度、流れ性、粒度分布、ペレット成型体強度などがある。比表面積以外の粉体特性値は、粉末の容量には依存せず、後工程の条件によって変えることが出来る。

比表面積はフィッシャーサイズ(粒子径)、BETなどで示されるが、熱履歴によって影響を受けやすいので、工程管理が非常に重要となってくる。粉末の嵩密度と粒度分布は粒子の熱凝集度、熱履歴に依存し、プレスペレットの成型体強度、粉末の流れ性、プレス時のダイス充填性に大きく関係する。

コンデンサー用のタンタル粉末は、現在これらの特性を考慮して製造されている。