一般社団法人新金属協会

平成22年12月3日開催異業種交流会における講演内容です Vol.4

キャボットスーパーメタル(株) 常務取締役 技術統括 泉 知夫

第四回「タンタル概論」 泉 知夫(キャボットスーパーメタル(株))

5-2 タンタルコンデンサー用粉末の開発経過と現状

タンタルコンデンサー用粉末の開発経過を振り返るとタンタルコンデンサーは小型・大容量であることが大きな特徴である。このため、コンデンサー高容量化の研究開発が、タンタルコンデンサーの技術開発歴史といっても過言ではない。タンタルコンデンサーの高容量化の歴史は、弊社のような粉末メーカーからの歴史と、コンデンサメーカーからの歴史の二つの側面から語る事ができる。

粉末メーカー側から見ると、高容量化の歴史は、粉末の微細化の歴史である。図-9は、各時代における最先端のタンタル粉の容量値を示している。この図より、タンタルコンデンサー用粉末は1965年の3 kCV/gから2010年の250 kCV/gまで45年で80倍になっている事がわかる。最近は300 kCV/g以上の粉の研究開発が進められている。

図―9

また、コンデンサメーカー側から見ると、高容量化の歴史は、素子の焼結温度や素子の化成電圧を下げる歴史である。図-10は素子の焼結温度と容量値の関係を示している。この図より、製品のグレードが高容量化するに従い、焼結温度が低下し、最新の250 kCV/g粉では1200℃程度まで下がっている事がわかる。しかしながら、焼結温度を低下させると、コンデンサー素子の強度が低下し、信頼性も低下するため、ただ単に焼結温度を下げるだけでは多くの問題が生じてきた。

図-10

現在300 kCV/g以上の粉が研究開発されているが、この次世代粉末を商業的にコンデンサーへ応用するためには、次に示すようないくつかの課題が存在する。

 

(1) 材料の製造

300 kCV/g以上の容量を達成するためには、陽極酸化皮膜の厚さが薄くなければならない[2]。図-11に皮膜の厚さと容量の関係について、理論的な計算結果を示している。この図より、皮膜の厚さが薄くなると容量も格段に大きくなるが、粒子の平均粒子径も数十nm程度の大きさを持つことが要求されている。実際的には化成電圧は20Vより低い領域での議論になるであろう。

図-11

このような微粉末は、k2TaF7のNa還元法やTa2O5のMg還元法からは、生産性や粒子の均一性の観点から、効率よく製造することが今のところ難しい。このため、新しい還元方法の研究が近年活発に行われている[3],[4]

現在、このような微粉末の製造法として、最も有望であると考えられている方法は、前述したフレイム合成法と呼んでいるTaCl5とNaを反応させる方法である[5]。これは、図-6に示すように、ガス状のTaCl5とNaを気相中で反応させる方法である。この方法を用いることにより、比表面積(BET)が、18 m2/g程度の粉末の製造が可能であり、得られるTa粒子の外側がNaClで覆われているため、空気中の酸素との反応が制御され取り扱いが容易になる特徴がある。

この反応も含めて、超微粉末の製造工程の早急な確立が求められている。

(2) 新しい陽極素子の検討

従来の粉末の製造工程では、陽極素子を作る際の紛体の流れ性、成形性を向上させるために、造粒および熱処理工程を行っている。ただ、このような超微粉末になると、熱処理工程時に一次粒子の粒子成長、熱凝集等で表面積が減少し易く、目標の容量が達成されないことが考えられる。

これを防ぐために、プレス成型という従来の陽極素子の製造工程ではなく、紛体特性があまり問題とならないスラリー等による板状物やプリント技術の応用のような初期の一次粒子のポテンシャルをそのまま生かす工法も必要になるであろう。

 

(3) 粒子表面の改良

先程も述べたように、300 kCV/gのタンタル粉末は、粉末の一次粒子が50 nm以下となるため、陽極酸化皮膜の厚さ即ち、化成電圧は制限を受ける。一般に、250 kCV/g以上の粉末になると、化成電圧は、実質的には20 V以下でないと、効率よく容量を出せないと考えられる。さらに、新しい問題として、粉末の表面にもともと形成されている、自然酸化皮膜と陽極酸化皮膜の関係が重要となる。

自然酸化皮膜は図-12のTEM像に示されるように、3.3 nm程度であり [6],[7]、高圧化成時には陽極酸化皮膜中に埋もれて、影響はなくなると考えられているが、20 V以下の低圧化成時では、自然酸化皮膜と陽極酸化皮膜の厚さは大きな差がないため、自然酸化皮膜の特性も化成皮膜へ何らかの影響を及ぼすことも考えられる。このため、今後、自然酸化皮膜について更なる知見を深めていく必要性がある。

図―12

 

(4) 薄い陽極酸化皮膜の改良特性

将来300kCV以上の粉末を開発する際、化成電圧は20 Vより低い例えば5V化成電圧程度になると考えられるが、陽極酸化皮膜の厚みはその時10 nm程度となり、この薄い陽極酸化皮膜の性質がコンデンサー特性に大きな影響を及ぼすであろう。このため、薄くても安定した構造を有する皮膜を形成する新しい方法が求められている。

6.まとめ

タンタルコンデンサーの歴史は古いが、市場の要求に応えることにより、現在まで来ている。今後更に新しい次世代の粉末を開発することにより、タンタルコンデンサー業界の発展が期待される。

 

7.参考文献

[1] 泉知夫: “タンタル・ニオブの粉末製造展望”, 金属, 69 (1999), pp. 875-880.

[2] 泉知夫、松岡良輔: “超高容量タンタル粉末の開発”, 電解蓄電器評論, 59 (2008), 82-90.

[3] R. L. Axelbaum and D.P. DuFaux: US Patent 5498446など

[4] Yusuke Hoshino et. al.: “Production of Tantalum Fine Powder by Reduction of Tantalum Chloride with Zinc”, ECS Transactions, vol. 46, issue 49 (2009), pp. 247-253.

[5] 泉知夫、松岡良輔: “最近のタンタルコンデンサ用粉末の開発状況”, 電解蓄電器評論, 60 (2009), 83-89.

[6] Y. Freeman et. al: “Low Voltage Specific Charge (CV/g) Loss in Tantalum Capacitors”, Journal of Electrochemical Society, 157 (2010), G161.

[7] 幅崎浩樹、清水健一: “バルブ金属アノード酸化皮膜の結晶化”, 表面技術, 57 (2006), pp. 51-57.

 

筆者紹介

泉 知夫 (Tomoo Izumi)
キャボットスーパーメタル株式会社
常務取締役 技術統括

〒105-0012 東京都港区芝大門2丁目5番5号
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Mail; Tomoo_Izumi@cabot-corp.com

Managing Director Technology,
Cabot Supermetals K. K.
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