第一回「タンタル概論」 泉 知夫(キャボットスーパーメタル(株))
初めに;
最近、レアメタルの話題が中国との貿易摩擦などの影響で脚光を浴びているが、レアメタルは今までこれらの仕事に携わる会社関係とか研究所、大学関係の人にはなじみ深い材料であったが一般の人には名前も聞いたことがない元素であったと思われる。
タンタルはレアメタルの中の金属のひとつで関係者以外にほとんど知られていない材料である。筆者は40年来タンタルとニオブの研究開発技術関係の仕事にかかわってきたが、今回、新金属協会の異業種交流の資料として講演したものに加筆してまとめた。本文を通して今まで関係の薄かった方々にもタンタルに興味をお持ちいただくきっかけになれば幸いである。
弊社は、1960年代より研究開発を始めて(当時の昭和電工㈱)、現在も製造販売(Cabot社)を行っているタンタル材料業界の指導的地位にある会社である。
本稿では、タンタルの用途、特性などの概説とコンデンサー用のタンタル粉末について製造工程、技術開発状況など説明する。
説明内容については以下の目次による。
1.タンタルの特性
2.タンタルの用途
コンデンサー、酸化物、炭化物、合金添加材、ミルプロダクト(展伸材など)
3.タンタルの資源
4.タンタルの製造工程
4-1 コンデンサー用タンタル粉末
4-2 ミルプロダクト
5.タンタル電解コンデンサーについて
5-1 タンタルコンデンサーの説明
5-2 タンタルコンデンサー用粉末の開発経過と現状
6.まとめ(今後の課題)
7. 参考文献
1.タンタルの特性
タンタルは、原子番号73の金属で1802年にスウェーデンの化学者アルデンス・エーケベリ(A. G. Ekeberg)によりイットロタンタル石という鉱物中からニオブとの複合酸化物として発見され、発見から40年過ぎた1848年にドイツの化学者ハインリッヒ・ローゼ (H. Rose) により単体として分離に成功した金属である。非常に扱いの難しい金属でギリシャ神話のタンタロスにちなんで名づけられたといわれている(Tantalizeはじらして苦しめるという意味である)。
タンタルは、比重が16.65g/ccと重く、融点が3027℃と高く、真空中では耐熱性強く、耐食性は白金並みに優れ(フッ素酸には可溶)、焼鈍材は金属塑性加工も容易である。ただし空気中では500℃程度以上の環境で酸化して白色粉となる。タンタルの陽極酸化皮膜であるTa2O5は誘電体として性質が優れている。
2.タンタルの用途
表-1と表-2にタンタルの各種用途の一覧を示す。
表-1
表-2
タンタルの陽極酸化皮膜であるTa2O5は誘電体として性質が優れているためコンデンサー用として1960年代から商業的に使用されており、現在にいたっている。タンタルコンデンサーはノートパソコン、デジタルカメラ、携帯ゲーム、携帯電話などのデジタル機器、スマートフォン、アイパッドなど小型情報端末、自動車制御装置、電話基地局などのインフラ設備などに広く使われている。競合製品はアルミコンデンサー、セラミックコンデンサーである。タンタルコンデンサーは特性が優れているが価格が高いため上記製品の開発品スタート設計には採用されるが数年で代替コンデンサーに代わる場合が多い。
タンタルの酸化物はタンタル鉱石の精錬の過程で生じるタンタルフッ素酸液にアンモニアを反応させ、水酸化タンタルを生成し、これを焙焼して酸化物にする。タンタル酸化物は光学レンズの特性を向上させる添加剤として用いられている。
タンタル炭化物はタンタル酸化物と炭素を混合して高温熱処理することによって得られ、WCなどの超硬材料の耐熱性などの改良のため添加剤として用いられている。
タンタルは真空下では耐熱性が大きいので2000℃近くまでの真空熱処理の炉材として用いられている。また酸に対して強いことから環境的に厳しい特殊な反応器とか化学装置の重要部分に用いられている。
タンタルは各種の合金元素として使用されている。耐熱鋼の高温クリープ改良用、ジェットエンジン、ロケット材料向けNi基合金(スーパーアロイ)の高温強度改良用などで欠かせない材料である。
現在、世界中で年間2000 ton(Ta純分)ほど生産されているタンタルは、約半分がタンタルコンデンサー用の原料(粉末とワイヤー)として使われており、その他の用途としては、電子デバイス(ターゲット材料なども)、超硬工具添加材料、耐熱合金用添加材料・耐食材料、光学レンズ添加材料、化学プラント材料、人工骨などに使われている。
図-1
図―1にタンタル用途の全体内訳グラフを示す。